炎に包まれた応接間の中では、出火元であるバルトールの体に変化が起こっていた。
さっきまで人間の姿をしていたバルトールは炎を纏いながら、長い首をもたげる。


「……やっぱり。見覚えがあると思ったら。」


無情王は対面に立ち塞がる、巨大な金色の竜を睨んだ。


純金の鱗に覆われた四つ足の体に、一対の透き通る羽。頭には2本の捻れた角を備えた竜。広い応接間の天井に、優に頭が届くほどの大きさだ。小さな体の無情王とは比較にならない。

何より注目すべきは、その美しい姿。
炎の光を受けて一層輝く体。どんな生物よりも、どんな美術品よりも繊細な造形で、しかし力強く、神様の最高傑作と呼べるほど。

無情王は、どこか懐かしむように竜の名前を口にした。

「変わらないね、フィクシオ。」

金の竜フィクシオは、その目に悲しげな色を宿す。

【貴方は随分変わられた。
そのような惨めな姿に成り果てるとは、何が貴方を変えたのでしょう…。】

「惨めか……僕も以前はそう思ってたよ。」

無情王の視線は目の前の美しい竜ではなく、その向こう側に注がれていた。

フィクシオの視線が、無情王と同じく背後の扉へと向く。
扉を隔てた向こうで斧を振るう、ティエルナの姿を思い浮かべた。

【……そうか、あの人間なのですね。】