「……おなか、すいた……。」

わたしが覚えている最も辛い記憶は、色の無い薄暗い世界。
わたしは独りぼっちで、寒くてひもじくて、小さく丸くなることしか出来なくて。

黒い雪が降る中、眠くてたまらなくなった。
このまま眠ったら、何もかも楽になるのかしら。
そう願いながら目を閉じるわたしに、あの声は問いかけた。


「ーーーおまえ、行く宛てが無いのか?」


その時だ。白黒の世界に色彩があふれたのは。

明るい金髪に、青い瞳。この国ではごくありふれた容姿。
でもわたしには特別で、その真っ直ぐな眼差しから、目が離せなくなった。

「宛てが無いなら、私の城へ来てくれないか?」

「………おしろ……?」

「そう。私の城を守ってほしいんだ。」


あの人が、あの(かた)が、わたしを人間らしい姿へ戻してくれた。

だから、あの日からわたしは、あの方が与えてくれたこの仕事に命を捧げようと誓ったの。