俺は覚悟を決めて、笑っている茉白に聞く。

「あのっ、となり、座ってもいいですか?」

 茉白は顔を上げ、薄茶の瞳で俺を見つめて言った。

「はい。どうぞ」

 それから俺は、噴きあがる透明なしぶきを眺めながら、茉白の話をたくさん聞いた。

 部活には入ってなくて、好きで描いた絵が、入選してしまったこと。
 家族は両親と三つ上の姉。それから小さな犬と大きな猫。
 姉とは性格が真逆で、時々ケンカをするけど、実はとっても頼りにしている。
 夏と冬だったら、夏が好き。でもプールの授業は嫌い。
 苦手だった炭酸飲料を、最近飲めるようになって、こっそり毎日飲んでいる。

 俺は茉白のことを知れば知るほど、彼女に惹かれていった。

「私、毎週日曜日は、ここで絵を描いてるの」

 いつのまにか空は夕焼け色に染まり、別れ際に茉白が言った。

「だったらまた……会いにきてもいい?」

 俺の声に茉白は静かに微笑み、うなずいてくれた。

「じゃあまた来週も、会いにくるよ」

 しかし翌週、俺が茉白に会うことはなかった。