茉白とはじめてしゃべったのは、去年の今ごろだった。

「あのー、もしかして三年生の、森園茉白さんですか?」

 茉白はその日もここでスケッチをしていて、突然話しかけてきた不審な男に、驚いたような表情をみせた。

「あっ、俺、怪しいものじゃないです。同じ高校の一年で、羽野青慈っていうんですけど……って、俺のことなんか知るはずないよな。いやでも、こっちは森園さんのこと知ってて……ていうか、森園さんの絵をずっと見てて……」

 必死に意味不明な説明をする俺を、茉白はきょとんとした顔で見ていた。
 その顔がなんだかすごくかわいくて、俺はますます挙動不審になる。

「昇降口に飾ってある、噴水の絵! なんかのコンクールで賞をとったってやつ! あれ、森園さんの絵ですよね?」

 学校に行くたび、その絵を見ていた。
 噴水の前で、子どもたちが楽しそうに遊んでいる、透明感あふれる絵。
 美術に関心のない俺には、芸術の素晴らしさなんてわからなかったけど、なぜかその絵には心惹かれてしまった。

「あ、はい。そうですけど……」

 茉白が白い頬を少し赤く染めて答えた。俺は深く息を吐く。
 やっぱりそうだった。思い切って声をかけてよかった。