真夏の公園は日差しが強い。
 噴水は今日も水しぶきを上げ、子どもたちがその周りを走りまわっている。

 緑の木陰に視線を移すと、絵を描いている茉白がいた。
 その姿は今にも消えてしまいそうに儚くて、ぐっと胸が苦しくなる。

 最後だ。茉白の姿を見るのは、これが本当に最後。
 茉白はもう、俺に「覚えてる?」って聞かれて、悲しそうに微笑まなくていいし、俺も無理やり笑顔を作って、無意味な自己紹介を続けなくていい。

 ベンチの前を通る。茉白がそっと顔を上げる。
 気づかない。気づくはずはない。

『また来週も会いにくるから』

 そんな約束、どうせ茉白は覚えていない。

「あの……」

 澄んだ声が聞こえて、大きく心臓が跳ねた。
 立ち止まった足が、みっともなく震えている。

「これ……あなたですよね?」

 振り返ると、互いの視線がぶつかった。
 茉白は静かに立ち上がり、スケッチブックを差しだしてくる。

「私、記憶がないんです。でも今日ここに来て、スケッチブックを開いたら、この絵が描いてあって……私が描いたんだと思うんですけど」

 俺は近寄ってきた茉白から、スケッチブックを受け取る。

「これを見ていたら、なんだか涙が出てきてしまって……」

 それは噴水の前で、俺が子どもたちとサッカーをしている絵だった。
 無邪気な顔で笑っている、絵の中の自分を見て、無性に恥ずかしくなる。

 すると茉白が、潤んだ瞳で俺に言った。