こぼれた涙も君の記憶も、ラムネ瓶の中に閉じこめて

「なんかごめん。ひとりで楽しんじゃって」

 気づけばあたりは、金色に染まっていた。
 子どもたちが手を振って、家に帰っていく。

「ううん。すごくいいもの見せてもらっちゃった」
「すごくいいもの?」

 その言葉には答えずに、茉白はただ微笑んでいる。
 俺はそんな茉白に今日も尋ねる。

「茉白さん、なにか欲しいものとかない? 来週持ってきてやるよ」

 茉白は少し考えて首を横に振る。

「ううん、なにもいらない」
「なんかあるだろ? 好きなものとか、やりたいこととか」

 もう一度首を振った茉白が、小さな声でつぶやく。

「あなたが来てくれれば、それでいいよ」

 胸の奥がかあっと熱くなる。
 その途端、ずっとため込んでいた想いが、言葉になって溢れでた。

「茉白さん……俺……」

 茉白が不思議そうに俺を見る。

「俺、茉白さんのことが好きだ」

 茉白の瞳が大きく見開く。

「はじめてあの絵を見たときから……顔も知らない茉白さんのこと……好きになったんだ」

 白い茉白の頬が、赤く染まった。
 だけどその表情は苦しげで、俺の言葉が彼女をこんな顔にさせたんだと気づいた。

「あ、いや、ごめん。急にこんなこと言って……」

 うつむいてしまった茉白に言う。

「はじめて会ったやつにこんなこと言われても……困るよな」

 はははっと笑って、一歩下がった。

「また来週も会いにくるから」

 茉白はやっぱり寂しそうに、俺の前で微笑んだ。