前回までのあらすじ!
二人分の魔力を確保して、無事魔物除けを設置したフロアへと戻ってきた俺を待ち受けていたのは、なんともとんでもない魔力投与方法であった!
「まさか魔力を与えるのがあんな方法だとは……」
「……? 何かまずかったの、おにいちゃん?」
「子供は知らなくて良いんです!」
とにかく。
俺が回収してきた魔力。
その……与え方が、ヤバかったのである。
こちらの想像では、剣に溜まっている魔力を抽出して球体みたいにして、それを身体の中に入れていくのかな~とか思っていたのだが、まさかの直接的接種方法だった。
「……ん、ぴちゃ、……ぴちゃ、ぇふ……、」
「れる……、ん……ふ、ちゅぷ……、んん……」
剣に溜まっている魔力を体内に吸収するには。
剣から出る魔力をそのまま舐めとるという方法だった。
「れろ、れろ……、かぷ……」
「ちゅる……、ふ、ぁ……、ちゅる……」
なんかこう……、物理!
そして絵面がヤバイ……!
「おにいちゃん、そのままソレ、持っててね」
「お、おう……」
立ち上がる力のない二人は、中腰から四つん這いくらいの姿勢が限界である。最初は剣を普通に構えた状態でいたのだが、姿勢的に届きそうにないみたいで。
なので地面に剣を置き、俺が柄だけを握っていれば舐めやすいかな~と思ったのだ。
そして。
結果的に、それが一番の悪手で。
呼吸の荒い二人の幼女が、地面の剣をぺちゃぺちゃ舐めるという、とても特殊なプレイみたいな絵面が出来上がってしまったのだった。
ちなみに。剣を舐めると聞いた瞬間に綺麗な水で洗い流しているのでご心配なく。
まぁそれでも汚れはあるかもしれないけど、一応な……。
「……背徳的な絵面だった」
何がヤバイって。
二人とも魔力不足だったからか、己の能力で作り上げているらしい『衣服』が、あまり維持できていなかったのだ。
ベルは元々布面積が少なかったのであまり変わらなかったが(それはそれで問題だけども)、ルーチェのほうはほぼ布地部分が無くなっていた。
元がしっかりと着ていただけに、そのギャップにくらりときてしまったのは事実だ。
けれど魔力不足の今、服を着ろとは言えるわけもなく……。
「全裸に近い、ほぼ半裸状態の幼女二人が、地面に置いてある剣を、息を荒げて舐めるという異常事態に……!」
「何を気にすることがあるんですの我が夫。
この身は全て貴方に捧げると決めているのですわよ? 今更全裸の一つや二つ」
「それもそれで大変なんだけど、もっとこう……世間体の問題なんだよッ!」
通りすがりの冒険者がいなくて本当に良かった……!
見られていたら、どんな理由があるにせよとっちめられていただろう。言い訳が出来る状況ではな無かった。
こいつらを連れて歩くのであれば、そこらへんの言い訳はいつでもできるようにしておかないといけないなぁ……。
「元気が出てよかったね、二体とも!」
「オウ、ありがとうなゴシュジン、ヴァルヒナクト!」
「あなた方のおかげで、助かりましたわ!」
「えへへ……」
わちゃわちゃと元気に笑い合う三人を見て、俺も良かったと腰を下ろす。
なんか一日色々あったが、どうにか一件落着のようだった。
その……、たった一つを除いては、な。
「ふぅ~……。
まぁなんにせよ。落ち着いたみたいだし、ちょっとだけ休むとするか」
こちらの言葉に三人は頷いて、それぞれ腰を下ろしてリラックスし始めた。
俺も緊張を切らさない程度にゆっくりし、一旦気持ちを落ち着けることにする。
「おにいちゃん、ちょっとだけなんて言わずに、もっと休んで良いんじゃない?
この魔物除けの魔法筒って、もっと効果時間長いと思うんだけど」
「おぉ、そんなことまで分かるのか」
「うん。魔剣だから、『魔』の何かならなんとなくわかるよ」
正確には無理だけどねと、俺の横へ座って笑うヒナ。
「そうかぁ。凄いんだな魔剣ってのは」
「えへへ、ありがとー」
わしゃわしゃと頭を撫でると、ヒナは嬉しそうに顔をほころばせる。
かわいいのう~……。
「ねぇねぇ、それでさおにいちゃん。何で『ちょっと』なの?」
「ん? ……そりゃあだって、新しく魔力を捕りに行かなきゃいけないからな」
「え……」
目を大きく見開いて、ヒナは驚いた表情を見せていた。
まったくコイツめ……。気づかれないとでも思ってたのかよ。
「足りなかったのは、ベルやルーチェだけじゃない。ヒナもだろ?
確かに俺と『繋がって』いたことで多少はマシだったんだろうけど……、時折見せてた険しい顔つきで、そうなんじゃないかと思ってな」
「……おにいちゃん」
沈むヒナの頭を、俺は再び軽く撫でた。
百人力なこの身体だが、今はとても儚く――――か弱く見える。
いや、弱ってるこの状態でも、たぶん俺より全然強いんだろうけど……。
「俺に心配かけまいと、言い出せなかったんだろ。
魔力の溜まった剣をじっと見つめてたときも、言い出すかどうか迷ってた。違うか?」
「……うん、ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいけどな」
俺が軽く笑うと、ヒナは小さな肩を震わせていた。
まったく……。魔剣だか何だか知らないが、意地張りやがって。
「俺も、ベルもルーチェも、誰も攻めないさ」
小さな頭をに手を軽く置いて。
俺は意を決して――――三名の幼女に宣言した。
「だって俺らはこれから……仲間になるんだからさ」
「え――――」
「ゴシュジン!」
「我が夫!」
「あぁうん……ルーチェ。やっぱ、『我が夫』呼びは慣れないから、ちょっと変えてもらってもいいデスか……?」
ともかく。
こほんと咳払いをして俺は続ける。
「俺の役に立つために俺の元に来てくれたこと。とても嬉しく思う。……その、たぶん俺がお前らを助けたのは偶然なんだけどさ。
だけど……その気持ちを無碍には出来ないし、その気持ちに、応えたいとも思う」
こいつらが便利だから利用しようとかの、打算じゃなくて。
逆に、命を救ってもらったからという、引け目でもなくて。
人の役に立ちたいという気持ちを振り払えるほど、残念ながら俺は強くないんだよな、これが。
「めっちゃ弱いし、幼女であるお前らに守ってもらう立場になるかもしれない」
万年C級だし。アラフォーのオッサンだし。
幼女と居るのはおかしいかもしれない。
だけど……。
「お前ら三人と一緒に居たいと思うんだ。
だからどうか……よろしくたのむ。ヒナ、ベル、ルーチェ」
頭を下げると、三人は笑って頷いてくれた。
まだ知り合って間もないけれど、俺をしっかりと見てくれている。そんな気がした。
俺はそんな三人に、続けて、強く決意表明をした。
「だから――――いっぱい迷惑かけていいんだぞ。
不調がなんだ。俺なんて絶好調でもお前らみたいに強くないんだからな」
パーティは、一蓮托生だ。
俺の背中はお前らに預けるし、お前らの背中は、出来る限り俺が見ていてやる。
「あはは! ゴシュジンはベルが守るから安心しろ!」
「そうですわ我が夫! わたくしの根性魔法が火を噴きますわよ!」
「火を噴くのはベルのほうだし根性魔法って何だっていう……あぁもう、ツッコミが追い付かねぇよ!」
がやがやと笑いあっていると、うつむくヒナから「ぐすっ」という音が僅かに漏れてきて。
そして顔を上げ、笑顔で言った。
「うん! ありがとう――――みんな!」
俺は頷いて、改めて頭を撫でる。
魔剣だなんて禍々しいものではなく、どこか太陽の臭いがした。
「あらためて。ドリー・イコンだ」
すっと右拳を差し出す。
それに応えるかのように、小さな掌が三方向から伸びてきて、俺の手を柔らかく包んだ。
「うん、おにいちゃん。よろしくね!」
「楽しもうな、ゴシュジン!」
「わたくしが居れば、どんなことでも可能でしてよ!」
こうして。
俺はパーティを追放され、新たなるパーティを結成することになった。
この先何がどうなるのかは全く分からないけれど、幼女たちと楽しく生きていくのもいいかもしれない。
「それより俺……、捕まったりしないだろうな?」
「う~ん……、たぶん大丈夫じゃないかな、おにいちゃん。口裏合わせるし」
「とりあえず一人はまともな感性持ってる奴がいて良かったよ……」
ロリコン罪でしょっ引かれでもしたらたまらないからなぁ……。
爽やかなパーティ結成だったが。
これまでとは違った意味で、多難になりそうではあった。