それは。
 とてつもなく、遥か昔。
 勇者と魔王がおったそうな。
 その傑物たちは、一ヵ月の間。世界各地を飛び回り、互いの魔力をまき散らしながら、延々と戦い合っていたそうで。
 そしてついに、二人は共に力尽きる。
 魔王は消滅し、勇者は死に果てた。
 そして世界には二人の魔力残滓が降り注ぎ――――世界中に『ダンジョン』と呼ばれる物体を発生させることとなる。
 これが世にいう、光と闇の戦争の結末であった。



「……まぁそんな世界になっちまったので、俺たち冒険者は、そこらに発生したダンジョンを攻略して、生活を営むようになったと。こんなところだな」
「そうなんだね! かっこいいね、おにいちゃん!」
「いやヒナ……。これは俺の話じゃないんだけど」

 あるところにこんな男がおったそうな……から始まる、昔話を聞かせていたところだ。
 というか、冒険者ガイドの一ページ目。冒険者の職についたら誰でも聞かされる、とてもつまらない話の部分だ。

 この作中でかっこいいのは冒険者ではなく勇者なので。間違ってもアラフォーオッサン冒険者の俺なんか、この勇者の足元にも及びません。仮に魔王が復活したり、第二の脅威が襲い掛かってきた場合。一目散に逃げることだけを考えるだろう。

「命は大事だなゴシュジン! ベルもゴシュジンに教えてもらったから知ってるぞ!」
「あぁうん。そうね……」

 そんな大層なコトを教え込んだ訳でもないんだけどなぁと思いながらも、ごろんとベッドに横になる。

「それで旦那様? つまり総合すると、世界中に散った魔王の魔力が、ダンジョンを作り上げているということなのですわね?」
「あぁうん、そうだぞ。あくまでも魔王と勇者は、もう既に死んでいる。世界中で発生しては消えていく『ダンジョン』は、あくまで魔王と勇者が発した魔力の残滓だ」

 最初は魔王だけのものだとか言われてたらしいけど。研究が進んでいくにつれ、勇者の魔力も入っていると判明したんだったっけ。まぁ、どっちがどっちかなんてわからないし、仮に分かったところで中身は一緒だけどな。

「魔力濃度が強ければ強い程、ランクってのが高くなってくんだけど……」
「おにいちゃんのランクはAだから、すっごく上だね!」
「………………まぁな」

 やや。
 ため息とともに、言葉を紡ぐ。
 いやまぁ。Aランクということ自体は問題ないのだ。だいぶその肩書にも慣れてきた。
 ただ――――

「どうしてこうなった」

 ベッドに身体を預け、ぼんやりと天井を眺める。
 そんな俺の顔を覗き込む、三人のかわいい幼女たち。

 一人は。眼鏡をかけた黒髪の聡明そうな子、ヒナ。
 にこにこと明るく笑う、健気な女の子だ。

 一人は。角の生えた褐色で元気な子、ベル。
 健康的でとても元気。野性味あふれる女の子だ。

 一人は。金の髪をツインテールにまとめ上げたお嬢様な子、ルーチェ。
 名門貴族のご令嬢なのではないかと思えるくらいに気品高い女の子だ。

 そんな、とても小さく可愛らしい幼女たちと。
 俺は何故か、行動を共にしている。
 今年で御年(おんとし)四十歳。冒険者歴ももう二十年以上になる。万年Cランクだった(・・・)者だ。
 それが――――

「どうして……、こうなった?」

 いや。
 いやいや、分かってはいるんだけども。
 けれども。自問自答もしたくなるものだ。
 こんなくたびれたオッサン冒険者が、どうしてこんなにも若々しい……、若々しすぎる女の子たちと、共に旅をすることになったのか。

 それは正直、今でも全容はつかめていないんだけども。
 それでも、勇者や魔王にも物語があるように。
 俺――――ドリー・イコンにも、僅かながら、物語があったのだ。

「おにいちゃん!」
「ゴシュジン!」
「旦那様!」

 寝ころびながら。まどろみながら。
 あの時のことを、ゆっくりと思い出す。

 これは。
 つい最近の話。
 この三人に、命を助けてもらったところから始まる。

 あるところに。
 ドリー・イコンという、万年Cランクの冒険者がおったそうな。

 そいつは残念なことに。
 長年連れ添っていたパーティから、追放されてしまったのである。