「───と、いうわけでございます」

「ま、待ってくれ。西園寺家には、兄上がいる。なぜ、その時点で僕だと……?」

理解は出来るのだが、どうもまだ追いついていたい部分がある。

「羚様のお兄様は、翡翠の瞳をお持ちで?」

「あっ……」

「そういうことでございます」

羚の祖母が猫又で、西園寺家に嫁いできた。そして、翡翠の瞳を持っていた。

嫡男だった父はその瞳を受け継いだ。

だが、羚の兄は翡翠の瞳を持っておらず、母に似た焦茶色の瞳だった。

──そこまで、調べているとは……。末恐ろしいな。

「ですから、羚様のお名前を知っていたのも、そういう事だったのです」

「あっ、そういえば……」

言われるまで気づかなかったが、名前を言ってもいないのに、知っているのはおかしいことだった。

調査でもしていなければ、名前など分からないだろう。
もっとも、社交界に顔を出している者達は別になるが。

「それで、羚様」

「はい?」

衣夜は緊張しているのか、頬が少し赤く染っていた。

「羚様は、私と結婚してくださいますか?」

「えっ! ええっと……」

顔が熱くなるのを感じる。

衣夜に一目惚れしたのは事実だが、まさかこうなるとは思っていなかったので、まだ少し困惑している。

──で、でも。もうほとんど決まっているようなものだし……。

衣夜の方をちらりと見ると、紅い瞳が訴えかけてくるように見える。

「私は、家の決まりだからというわけではなく、羚様の本心をお聞きしたいのです」

「ぼ、僕、は……───結婚したいです、貴女と!」

衣夜の顔をちらりと見ると、笑顔に変わっていった。

「嬉しいです。羚様」

「は、はい……」

思わずその笑顔に見惚れてしまって、畏まった返事をすることしか出来なかった。