一通り買い物を終えて、帰ろうとしていた時。
とある、一人の男性に目がいった。
切り揃えられた綺麗な黒髪、宝石のような翡翠の瞳。
少しつり目だが、顔が整っているので、周りから見れば格好いいと思われるだろう。
──猫又かしら? だけど、妖力は感じられない……。
猫又のような気配を感じたが、妖力をほとんど感じなかったので、人間だと確信する。
その時、彼と一瞬だけ目が合う。
その瞬間、身体中が落雷に当たったような刺激に襲われた。
「……っ」
何事も無いように、平然を装うも体がまだビリビリとした感覚があった。
少しだけ彼の元を通り過ぎた時、声が聞こえた。
「なんて、綺麗な……」
小声で本音を漏らしたような声に、耳を疑ったが、すぐに自分のことなわけが無い、そもそも彼かも分からないと、打ち消した。
「衣夜ちゃん?」
「すぐに参ります」
衣夜は早歩きで、母の元に駆け寄った。
「大丈夫? 何かあったの?」
「大した事ございません。ただ、殿方と目が合って、雷に打たれたような感覚がしただけです」
嘘は良くないので、正直に話すと母が目を見開いていた。
「ど、どうされたのですか、お母様……?」
「大変だわ。すぐにお家に帰りましょう!」
「え、お、お母様?」