邸から街までは少し距離があり、母の体の心配もあるので、出かける際は自動車か汽車を使う。
今回は、汽車で街まで行くことになった。
「お出かけなんて久しぶりね〜」
青や赤紫などの朝顔模様の着物を着た衣夜と、向日葵の柄の着物を着ている母。
身長も近いので、並ぶと姉妹に間違われそうである。
「あまり無理はなさらないでくださいませ。お母様」
日差しは差程強くないものの、夏が近いのか気温は高めだ。
「大丈夫よ。一日のお出かけくらいは問題はないわ」
「それでも、心配なのです」
元気だと言いながら、翌日かその日には体調を崩した母を何度も見てきた。
生まれつきの問題なので、どうすることは出来ないと分かっていながらも心配はしてしまう。
「娘に心配させちゃうなんて。だめな母親ね」
消え入りそうな笑顔を浮かべる母に、衣夜はつい反射的に声を出した。
「そんな事ございません!」
「あら、そう? ありがとう」
なでなで、と衣夜は優しく頭を撫でられた。
「ねぇ、衣夜ちゃん。これとかどうかしら?」
「お母様の贈り物でしたら、お父様は何でもお喜びになりますわ」
せっかく街に出かけたのに、仕事で来られなかった父が可哀想だと、母が何かお土産を買うことにしたのだ。
──お母様達は、いつまでも仲が良さそう。
ほとんどの家が政略結婚なのに対し、父と母は恋愛結婚だった。
「お父様、喜んでくれるかしら?」
「大変、お喜びになると思いますわ」
両親の仲を良さを嫌という程知っている衣夜は、何を今更という気持ちで答えた。
「そうだと嬉しいわ」
父の嬉しそうな顔を思い浮かべているのか、笑顔をこぼしていた。
それが、衣夜は少しだけ羨ましい気がした。
「衣夜ちゃんも、きっとすぐに出会えるわよ」
まるで、衣夜の心を見透かしたような発言に、少し驚く。
「どうして、分かるのですか?」
「ただの、勘よ〜」
──そういうものなのかしら。
衣夜は首を傾げた。
「あんまり、深く考える必要はないのよ。この人だって思う人が見つかれば、衣夜もすぐに分かるわ」