披露宴も終わり、羚は今日から衣夜と共に同じ邸に住むことになった。
「今日から、よろしくお願い致します。羚様」
「よろしくお願いします。衣夜さん」
同じ部屋で過ごすことになるのだが、お互い緊張しすぎていて畏まった言葉しか出てこなかった。
──結婚したのだから、やはりそういうこともするわけで……。いやでも疲れているし……!
披露宴の際の両親の会話が思い出される。
新婚初夜とはいえ、互いに心の準備というものがある。
「あ、あの、衣夜さん」
「は、はいっ」
羚は衣夜を抱き寄せた。
ぎゅっ、と抱きしめる力を強める。
「れ、れれれいさま……?」
「その、えっと……」
そのまま、少しの間お互い固まり続けたが、羚が口を開いた。
「く、口付けをしてもよろしい……ですか?」
「!」
衣夜は、小さくこくりと頷いた。
そして、二人は顔を少しずつ近づけた。
羚は、目の前の紅い瞳に吸い込まれるような感覚がした。
「……ん」
二人の唇が触れた時、衣夜の喉から、甘い嬌声が聞こえた。
唇が離れ、衣夜の顔を見ると真っ赤に染まっていた。
──多分、僕も今真っ赤だろうな。顔熱いから。
羚は、衣夜の頬を優しく撫でた。
「羚様……?」
衣夜もこの状況を察しているのだろうが、不安さが瞳に浮かんでいる。
「その……。まだ、お互いに心の準備、というか、そういうのが出来ていないと思う、ので……」
羚は片言に言葉を綴る。
羚自身も、心の準備が出来ていない状況だ。
すると、衣夜がクスッと笑みをこぼした。
「そうですね」
衣夜は、きゅっと羚の手を握った。
「私も、まだ心の準備が出来ておりませんので、も、もう少しだけ待っていてください……」
「ぜ、全然待ちます! む、むしろその、僕も待っていてほしいというか……」
言葉が上手く出てこなくて、顔が真っ赤になる。
──でも、焦る必要はないんだ。
夫婦なのだから、どちらか一方が焦る必要は無い。
二人で歩調を合わせて進めばいい。
そう思いながら、羚と衣夜は微笑み合った。