婚約が成立した一ヶ月後───。
この日は、羚と衣夜の結婚式だ。
場所は、狐輪家の式を行う離れの屋敷でお互いの親族だけで行われる。
「まあ! とっても似合ってるわよ、羚」
「ああ。よく似合ってるぞ」
「ありがとう。父上、母上」
羚は和婚で多い、黒の紋付羽織袴を着て、髪をしっかりと整えていた。
「まさか、俺より二ヶ月も早く結婚するなんてな」
「兄上もすぐですよ」
兄弟で楽しく笑いあっていると、使用人の一人が「そろそろお時間です」と、言った。
「花嫁さんを待たせたらいけないわ。早く行きなさい」
「はい」
その時、とん、と後ろから軽く背中を押された。
「幸せになれよ」
兄からの言葉に、羚は自然と頬が緩んだ。
「はい!」
式は、新郎新婦が狐の面を被って行われる。
お狐様の所まで歩き、中に入って座ってから初めて、面を取ることができる。
外はもう日が沈みかけていて、晴れてはいるが雨が降っている。
狐輪家の望んだ通りに、夕立ちが訪れた。
お狐様に顔を見せて、お神酒が渡される時、お互いの顔を見ることができる。
「……っ!」
羚の目の前に座る人は、とても幸せそうに微笑み、羚を見ていた。
上から下まで純白で統一され、衣夜の紅い瞳が今まで見てきた中で、一番輝いて見えた。
その美しさから、羚は衣夜から目を離すことが出来なかった。
──彼女はどうしてこんなにも、綺麗なのだろう……。
そんな彼女と結婚出来る自分は、幸せ者すぎるのではないか、と羚は思う。
誓いと共に、狐輪家に代々伝わる指輪を交換する。
流れを通して、式の終わりが近くなってきた。
親族固めの盃が行われ、互いの親族の盃にお神酒が注がれる。
「「おめでとうございます!」」
祝福の言葉と共に、両家の繁栄を祈りながらお神酒を飲む。
こうして、両家は家族として繋がった証が出来た。
式が終わり、両家は別の広い部屋へと移動をする。