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「申し訳ありません、羚様。みっともない姿を……」
「いえ。僕の方こそ、みっともない姿をお見せして……」
衣夜は首を横に振った。
「私のために怒ってくれたのですよね」
「!」
全てお見通しのように、衣夜は言った。
「私も、羚様を悪く言われたのが嫌でつい怒ってしまいました」
ふふっ、と微笑む衣夜だが、まだ少し怒っている様子だった。
「元はと言えば、僕が悪いんです。見知らぬ令嬢を助けた僕が……」
「人助けは悪いことではありません。むしろ羚様は素晴らしい方ですわ。それを変な方向に捉える者の問題です」
衣夜はにこり、と微笑んだ。
──それよりも……。殊、という方。お父様に言って調べてもらおうかしら。出来れば、家門を潰せたら良いのですけれど。
本当は自分の力でどうにかしたいが、当主でもない自分が何か出来る訳では無いので、父の力を借りるしかない。
自分が侮辱されるのは構わないが、好きな人盗ろうとした挙句、侮辱されるのは我慢ならない。
相手は人だったが、もしあやかしだったら衣夜の妖力の前では太刀打ち出来ないだろう。
むしろ、気絶しているかもしれない。
現に衣夜が怒っている時、妖力が漏れ、出席しているあやかしの家々は怯えていた。
妖狐に勝るあやかしは、ほとんどいない。
衣夜の父である明夜は、人間だが彼の母は鬼だ。
鬼は、妖狐と並ぶ強さだったがとある事件に巻き込まれ、衰退してしまった。
父の実家は、結構な強さを持つ家なので、鬼の一族は娘を嫁に出した。
二人は政略結婚だったが、とても仲が良かった。
その後すぐに、長子の明夜が生まれた。
明夜は鬼である母と同じ、紅い瞳を持って生まれた。
それと同時に、強い妖力にも恵まれた。
あやかしの血を持っていると、稀に妖力を持つ子が生まれることがある。
鬼の一族は大層喜んだ。あの子をうちの跡継ぎにしよう、と。
だが、明夜の両親はそれを良しとしなかった。
鬼は自分達のためなら、なんでもするから。
明夜の母は、それが嫌だった。
事件に巻き込まれたのも、そのせいだった。
その後、鬼の一族は呆気なく滅んでしまった。
そして明夜は、妖狐のあやかしである佳衣と結ばれ、狐輪家の当主になった。