(れい)。お前には、婿入りしてもらう」

「…………は?」

久々の家族水入らずの食事。
だが父親の突然の言葉に、羚は硬直する。

兄と母は知っていたのか、何も言わなかった。

「婿入り……? 突然、何を言い出すのですか。父上」

「突然か。今までの見合いからは散々逃げてきただろう。もうそうは言ってられんぞ」

──気づいてたのか。

名家、西園寺(さいおんじ)家の次男として生まれた羚は、長男になにかない限りは婿入りしなければならない事が、決められていた。

成人となった羚は、両親から見合いの話が来ていたが、「仕事があるので」と全て見合いを断り、逃げてきていた。

兄の(らん)は、婚約相手もおり仲も良好で、三ヶ月後には結婚が決まっていた。

なので、羚も婚約相手を決めないといけない、というより結婚を早急にしなければならない状況になってきた、ということ。

──この家を兄上が継ぐから、僕は邪魔というのは分かるが。僕が結婚する必要はあるのだろうか。

仕事一筋の羚にとって、結婚には抵抗があった。

しかし、西園寺家以上の名家だったら逃れるのは難しいだろう、と考えていると、父から驚きの言葉を発せられた。

「相手は狐輪(こりん)家の令嬢だ」

「「こ、狐輪家!?」」

羚と兄は同時に驚きの声を出した。
母もそれは知らなかったようで、声を出せないほど驚いている。

狐輪家は、西園寺家とは比べ物にならないほどの名家で、代々女児しか生まれないので婿入りを風習としていた。

そんな狐輪家に婿として選ばれるなど、光栄だと言われ、昔では大変珍しく大恋愛の末に皇家の三男が婿入りしたともされる家であった。

それだけで家の力を保ってきただけでなく、西洋の文化が入ってきたこの時代でも、衰退することなく、むしろ力を増しているとされる。

そしてこの国に人と共生する、あやかし()でもあり、その中でも強い妖力を持つ妖狐のあやかしだ。

「お前も、もう十九になる。とっくに成人している者が婚約すらしていないなど、他家から白い目で見られる」

「…………」

「とにかく、もうこれは決まったことだ。明日、狐輪家に向かうからそのつもりで」

「あ、明日!?」

一週間後とかならまだ分かるが、明日は急にも程がある。

もう、結婚はほとんど決まっているのだろう。

──これは、逃げられないな……。