「良くお似合いです、坊ちゃん」
「そうか?」
銀色に近い白の生地、羽織は金の模様が少し入った紅色。
髪もしっかりとまとめて、綺麗に整える。
「行ってらっしゃいませ。坊ちゃん」
「……ああ。行ってくる」
衣夜と共に会場に向かうため、自動車で邸まで迎えに行く。
日も傾き、夜を迎えようとしている。
「こんばんは。衣夜さ………っ!」
「こんばんは。羚様」
羚の目の前に立つ人の笑顔は、まるでこの世に降り立った女神のようだった。
翡翠色の着物は、様々な花の模様が散りばめられており、衣夜自身には薄く化粧が施され、髪は結い上げられていた。
──衣夜さんは、化粧などしなくても十分綺麗…………ではなく!
結い上げられている髪に付いているのは、先日、羚が贈った簪だった。
「つ、つけて、くださったんですね」
「はい。早く、羚様にお見せしたかったので。似合いますでしょうか?」
こてん、と首を傾げる姿が美しすぎて、羚は心臓が止まったかと思った。
「羚様、お顔が赤いです。もしかしたら風邪でも……」
衣夜の手が羚の頬に伸ばされるが、ぎりぎりでかわす。
「ひ、引いてないです! 全然大丈夫です!」
──流石に、今のこの顔の熱さを気づかれるのは恥ずかしい……。
「そ、そうですか?」
「はい! お、遅れたらいけないので、早く行きましょう!」
衣夜と共に自動車に乗り、会場に向かう。