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羚と出かけた日の翌日、衣夜は起きた時も食事の時も、どこか上の空だった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
使用人の一人、菊が衣夜を心配して声をかける。
「……大丈夫よ」
言葉は返ってくるものの、やはりボーッとしている。
「お嬢様、本当に大丈夫かしら……」
「心配ね」
衣夜の部屋の外で、襖の隙間からこっそりと様子を伺う使用人。
「何をしているの」
「きゃっ! あ、絢子さん……」
「まったく、覗き見なんてはしたない」
絢子に叱られて、しょぼんとしている使用人だが、自分達の可愛くて強い主人があんな感じでは心配もしてしまう。
「心配しなくても、お嬢様なら大丈夫よ。幸せだから」
「「え?」」
使用人は、訳が分からず首を傾げていた。
──私、羚様に口付けをされたのよね。
部屋にある椅子に、外を眺めるようにして座る。
確かめるようにして、左手で頬を触る。
その時の出来事が、衣夜の頭に鮮明に蘇る。
「だ、だめ……。思い出すだけで、死んでしまいそう……!」
あの日、衣夜は自分がどうやって邸に戻ったのか、その後どうしたのか、全く記憶にない。
ただ目が覚めると、いつの間にか朝を迎えていた。
「こんなで、私、パーティー大丈夫かしら………」
「大丈夫ですよ」
「きゃっ! あ、絢子、いつのまに……」
「何度も声をかけましたが、反応がありませんでしたので、無礼ながら勝手に入らせていただきました」
深く頭を下げ、謝罪の意を述べる。
──別にいいけれど。それより、さっき言ってたことはどういう事かしら。
先程の、絢子の大丈夫、の言葉が気になる。
「お嬢様なら、絶対に大丈夫です」
そう言って微笑む絢子に、衣夜は首を傾げる。
「パーティーの日には、婚約者様がくださった簪をつけて、それに合う着物を着ていきましょう」
「え? ええ……。そうね」
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