自動車で衣夜を邸の前まで送る。

「今日は、ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました。楽しめましたか?」

「はい、とっても!」

衣夜は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔に、羚の頬も緩む。

「衣夜さん」

「はい?」

羚は衣夜の手を握ると、ある物を渡した。

「これは……」

衣夜の手には一つの簪があった。

紅い紅葉の葉が主で、他の色の紅葉もとても綺麗に作られている。

「この飾りを見つけた時、貴女にとても似合うだろうと確信しました」

「私に……」

衣夜は嬉しそうに微笑み、瞳にはうっすらと涙を浮かべていた。

「嬉しい。嬉しいです、羚様。大事にします。一生大事に致しますわ」

ぎゅっ、と大事そうに両手で簪を握る。

「………」

羚は衣夜の右手を握る。

「れ、れれ、羚様?」

羚の顔が、衣夜に少しずつ近づく。
衣夜の頬に、羚の唇が触れる。

「!!」

「……では、僕はこれで。今度のパーティーでお会いしましょう」

衣夜はぽーっとしながら、羚の顔を見つめることしか出来なかった。