「そういえば、あのお話はお聞きになられましたか?」

休憩を終えて、衣夜と通りを歩く。

「パーティーの事ですよね」

「はい」

数日後に行われる、大きくはないが名家の者達が集まるパーティーがある。

羚と衣夜はそこに、出ることになった。

「本当に、お父様ったらいつも突然で……」

パーティーに出る目的は、狐輪家の婚約を公にも知ってもらうため。

いくつかの名家は知っているが、実際に見ていない情報を鵜呑みにする家ばかりではないので、実際に出てから見せなければいけない。

「でも、僕を婚約者として認めてくれてるって事ですよね」

「仮にお父様が認めずとも、私がおりますわ」

「ははっ。心強いですね」

──可愛い。

衣夜と歩いていると、とある会社のような場所に着く。

「ここですか? 羚様の仕事場所は……」

「はい」

目の前には、木造と煉瓦造りの大きな建物が建っていた。
西製薬、と名前が書かれている。

「お薬を作っておられるのですか?」

「はい。元々、薬剤師に興味があったのですが、父に反対されまして……。自分で会社を建てました。能力があれば、家柄関係なくどんな人でも働ける会社です」

羚が少し照れくさそうに言うと、衣夜は柔らかな笑みを浮かべた。

「凄いです。羚様は、とても素晴らしくて立派な方ですわ」

「好きな人に言われると、嬉しいですね」

羚は素直に思ったことを口にした。

「す、好きな人………」

衣夜の顔が、一気に赤く染まる。
羚はハッとして、自分の口を塞いだ。

「す、すみません、こんなこと……!」

「い、いえ。むしろ、嬉しい……です」

「え………」

羚の顔も一気に赤く染まる。

「い、行きましょうか」

「はい」