「れ、羚様……!」

羚の前に現れたのは、鬼灯(ほおずき)の柄が入った水色の着物がとても良く似合っている令嬢。

羚はその人を見た途端、笑みを浮かべた。

「お久しぶりです。衣夜さん」

白銀の長い髪を結い上げている。
前に会った時と雰囲気が違うだけで、とても可愛く見える。

──きっと、彼女は世界で一番綺麗な人だ。

こんなに美しい人とは、この先出会うことはないだろう、と羚は思う。

「お、お久しぶりです。羚様。お待たせしてしまい申し訳ございません」

「大丈夫ですよ。……とても綺麗です」

「れ、羚様も、素敵です」

まさか、そう返ってくるとは思わなかったのか、羚は顔を赤くした。

「え、あ、ありがとうございます……」

「はい……」

そこから少し沈黙が流れたが、「行きましょうか」と衣夜に手を差し伸べた。

「はい」

衣夜の手が、羚の手のひらに乗る。
二人はどきどきしながら、街を歩いた。




小物や雑貨、雑誌、衣夜が気になった所を羚は一緒に回った。

「羚様は、よろしいのですか?」

休憩を取るために寄った甘味処で、衣夜は聞いた。
羚は行きたいところを回らなくて良いのか、と。

「大丈夫です」

「でも……」

「僕は、衣夜さんの行きたいところ、気になるところを優先します。衣夜さんが喜んで、笑顔を浮かべてくださるなら」

羚が言った後、衣夜はパッと顔を下に向けた。

──も、もしかして、適当な奴だと思われてしまったか……?

「ち、違います、決してそんなつもりで言ったわけでは……」

すると、衣夜が顔を上げた。
顔が真っ赤だ。突然具合でも悪くなったのかと心配なったが全然違った。

「羚様は、ずるいです」

「え? あ、えっと、す、すみません……?」

「違いますっ! かっこいいんです、羚様が」

「……!?」

言われた意味を理解して、羚までも顔を真っ赤に染める。

「えっと、あ、ありがとうございます……」

二人の間にまたもや沈黙が訪れたが、そんな事気にすることなく、二人は幸せそうに微笑んだ。