あの紫の花と同じ香りで目が覚めると、ギルバートの家のベッドの上で、ギルバートが私を見守っていた。倒れる前よりも視界がくっきりしているような気がする。右手に火傷をしたような痛みがある以外は体に異常は無い。ギルバートはほっとしたように息をつくと、何があったのかを説明し始めた。
少女が私の唇に押し当てた花は人間界のトリカブトにあたる花らしい。人間界のトリカブトは晩夏から初秋にかけて咲くが、妖界では年中咲き乱れている。トリカブトには猛毒がある。人間界ではかつて中世で銀食器に反応しないからと暗殺に使用されていたような代物だ。
そして、妖界に咲く花の毒は人間界のトリカブトの毒よりも濃縮されて即効性のあるものだ。解毒剤はない。
しかし人狼はトリカブトの毒に対して耐性がある。人狼の血は血清のようなものだ。人狼の血を大量に摂取すれば、解毒剤の代わりとなるらしい。
中毒症状を起こした私を目にしたギルバートは反射的に自らを斬りつけ、大量の血を流した。彼が服をはだけると、包帯の上からでも分かるくらいに深い傷が切り刻まれていた。
「私のためにそんなに危険なことをしたのですか」
「この剣は純銀ではありませんから、相当深く斬らない限り死には至りませんよ」
ギルバートは微笑みながら私の髪を撫でた。嘘。どう見ても、相当深く斬っているくせに。
「私を心配してくださったのですか?困りますね。ますますミサが愛おしくなってしまいます」
強い眼光で見つめられると、赤面してしまう。
「顔が赤い。熱があるのですか?人狼の血を受け入れて体質が変わったのだから、ゆっくり休んだ方が良い」
ギルバートが私を労る。血清には副作用があるらしい。私も半分ほど人狼の体質になったと言える。今後私はトリカブトの毒で死ぬことはなくなり、五感が強くなった代わりに、私の体は銀を受け付けなくなった。右手をふと見ると、あの人にもらったシルバーリングが外れていて、薬指の付け根にその形にくっきりと火傷のような跡があった。銀に対してアレルギーに近い反応が出ているらしい。
「大切な物なのでしょう?ですから、銀を身につけられなくなるこのような方法はあまりとりたくなかったのですが、背に腹は代えられませんから。これ、ここに置いておきますね」
執着の象徴だった指輪はケースに入れられていた。けれども、もうこの指輪に未練が残っていない自分に気がついた。きっと私は、誰かにこの指輪を外してほしかった。
ギルバートの手に視線を移すと、彼の指先にも包帯が巻かれていた。きっと指の炎症に気づいた彼が私の指輪を外してくれたのだ。人間の私より、遥かに銀に対しての拒否反応が強いはずのギルバートが、鋭い爪で私を傷つけることなく丁寧に指輪を外してくれたのだろう。
私の体が火照っているのは決して副作用などではない。ギルバートの顔が直視できない。
「ギルバート様にキスされる夢を見ました」
言う必要があったかは分からない。けれども、なぜだか告白してしまった。
「申し訳ない。貴女の息を吹き返すために、無我夢中でした」
人工呼吸をしたのか、血を口移しで飲ませたのかは定かではないが、救命行為の一環で私にキスをしたことをギルバートは詫びた。命の恩人であることを差し引いても、私はそれを嫌だとは感じなかった。
「助けてくれてありがとうございます、ギルバート様」
少女が私の唇に押し当てた花は人間界のトリカブトにあたる花らしい。人間界のトリカブトは晩夏から初秋にかけて咲くが、妖界では年中咲き乱れている。トリカブトには猛毒がある。人間界ではかつて中世で銀食器に反応しないからと暗殺に使用されていたような代物だ。
そして、妖界に咲く花の毒は人間界のトリカブトの毒よりも濃縮されて即効性のあるものだ。解毒剤はない。
しかし人狼はトリカブトの毒に対して耐性がある。人狼の血は血清のようなものだ。人狼の血を大量に摂取すれば、解毒剤の代わりとなるらしい。
中毒症状を起こした私を目にしたギルバートは反射的に自らを斬りつけ、大量の血を流した。彼が服をはだけると、包帯の上からでも分かるくらいに深い傷が切り刻まれていた。
「私のためにそんなに危険なことをしたのですか」
「この剣は純銀ではありませんから、相当深く斬らない限り死には至りませんよ」
ギルバートは微笑みながら私の髪を撫でた。嘘。どう見ても、相当深く斬っているくせに。
「私を心配してくださったのですか?困りますね。ますますミサが愛おしくなってしまいます」
強い眼光で見つめられると、赤面してしまう。
「顔が赤い。熱があるのですか?人狼の血を受け入れて体質が変わったのだから、ゆっくり休んだ方が良い」
ギルバートが私を労る。血清には副作用があるらしい。私も半分ほど人狼の体質になったと言える。今後私はトリカブトの毒で死ぬことはなくなり、五感が強くなった代わりに、私の体は銀を受け付けなくなった。右手をふと見ると、あの人にもらったシルバーリングが外れていて、薬指の付け根にその形にくっきりと火傷のような跡があった。銀に対してアレルギーに近い反応が出ているらしい。
「大切な物なのでしょう?ですから、銀を身につけられなくなるこのような方法はあまりとりたくなかったのですが、背に腹は代えられませんから。これ、ここに置いておきますね」
執着の象徴だった指輪はケースに入れられていた。けれども、もうこの指輪に未練が残っていない自分に気がついた。きっと私は、誰かにこの指輪を外してほしかった。
ギルバートの手に視線を移すと、彼の指先にも包帯が巻かれていた。きっと指の炎症に気づいた彼が私の指輪を外してくれたのだ。人間の私より、遥かに銀に対しての拒否反応が強いはずのギルバートが、鋭い爪で私を傷つけることなく丁寧に指輪を外してくれたのだろう。
私の体が火照っているのは決して副作用などではない。ギルバートの顔が直視できない。
「ギルバート様にキスされる夢を見ました」
言う必要があったかは分からない。けれども、なぜだか告白してしまった。
「申し訳ない。貴女の息を吹き返すために、無我夢中でした」
人工呼吸をしたのか、血を口移しで飲ませたのかは定かではないが、救命行為の一環で私にキスをしたことをギルバートは詫びた。命の恩人であることを差し引いても、私はそれを嫌だとは感じなかった。
「助けてくれてありがとうございます、ギルバート様」