障子が音も無く開く。
その障子を開けた男は頭を下げ、その前を金の髪の男が入ってきた。
腰まである金糸のような髪、整った顔立ち。
目はつり目だが意志の強さを表すようだ。
身長も高く、年の頃は二十歳頃に見えた。
男が奥に座ると、すぐさま女達が膳を運んでくる。
男の前と鈴のまえに置かれ、鈴は見たことも無いほど豪華な食事に思わずツバを飲み込んだ。
男のところに女が酌をして、男は手で追い払うような動きをすれば皆部屋から出て行ってこの広い部屋で二人きり。
奥に男が、その右斜め前に廊下を向くように鈴は座らされていた。
「食え」
男の言葉に鈴は戸惑う表情を浮かべる。
食べたい。食べたいに決まっている。
焼き魚の香ばしい香りが鼻に届き、鈴の腹が盛大に鳴った。
真っ赤になって俯く鈴に、男は大笑いする。
「食べ物に何も入ってはいない。
冷めないうちに食え」
男はさっさと焼き魚を口に入れる。
鈴もじっと自分の目の前にある焼き魚に箸を入れ口に運ぶ。
ほんわりと温かく、そして良い香りが口の中に広がった。
「何故泣く」
男は鈴がはらはらと涙をこぼしていることに驚いた。
特に変わった魚では無いはずだが。
魚を初めて食べたのだろうかと思っていると、ややあって鈴が口を開いた。
「温かい食事は久方ぶりで」
鈴も自分が泣いていることに気付かなかった。
着物を濡らしてはいけないと、必死に手で目をこする。
温かい食事は母がいた頃以来。
藤谷家に引き取られてからは、使用人達と同じかその扱い以下で冷めた食事しか口にしていなかった。