鈴は身体に何かを熱いものを掛けられたことで目を覚ました。
驚き立ち上がると自分の身体は何も身につけていないことに気付く。
恥ずかしくてうずくまれば、目の前には嫌な顔を隠しもしない女が二人、湯涌と手拭いを持っている。
「主様の前にゆくのだ。
汚い姿で出すことなど許さぬ」
女達は風呂場で鈴を容赦なく身体や髪を洗った後、髪を丁寧に手入れし、身体中に傷薬を塗った後豪華な着物を着付けた。
こんな着物は藤谷家の上にいる女性がそれも大切なときにしか着る事は無い。
真っ赤な振り袖に小さな小花の柄。
小柄な鈴には初めて袖丈が合う物で、そして何とも美しい着物だった。
女達に有無も言わせず長い廊下を何度も曲がりながら連れて行かれ、鈴は既にどこをどう歩いているかわからない。
そして連れてこられたのは畳敷きの間。
ふすま絵は龍の描かれた凝ったもので、鈴は言われるがまま指を指された場所に正座した。
「お前はここで待っているように」
軽蔑では無く心底嫌っている目と声。
ずっとそういうものにさらされているので、鈴は顔色一つ変えずに礼を言うと頭を下げた。
だが一体何が起きているというのか。
父親に命令され、自分は捨てられたのだとわかった。
それでもあがこうとしていればあやかし達に襲われ、最後は誰かに連れ去られた。
藤谷家もそれなりの家だが、ここの屋敷はおそらくかなり上の身分のところだろう。
座ったまま、助けて貰った礼を言えば返して貰えるのか不安になっていた。