あやかしに食われるのは陰陽師として恥。
拾って貰ったお父様に迷惑がかかってしまう。
これ以上恥をさらさぬよう、せめて自分で。
鈴は覚悟を決め自分の首に短剣を突きつける。
震えている手に力を込め、鈴は目を瞑った。
「強情な」
力一杯動かした手が誰かに掴まれ動かない。
目を開ければ、暗闇に長い髪が揺れているのがわかる。
月の光が当たり、その髪は金糸のように広がった。
それはまるで、神が自分の元に降臨したかのごとく神々しい。
「俺の巣に入り込むとは良い度胸だ」
ドスのきいたような声に鈴の身体がビクリと動く。
だがそれは鈴にではなく周囲のあやかしへの言葉。
「な、なんでこのようなところまで」
「屋敷から出てこないのではないのか」
あやかし達は声しか聞こえないがかなり動揺し、じりじりと距離を開けている。
金の髪の男は周囲を鋭い目で見渡し、
「今度入ってきたら全て殺す」
その一言であやかし達は恐れおののいた顔をし一瞬で消えた。
目の前のあやかしが、先ほどまでいたいくつものあやかしが足下にも及ばないほど強いあやかしだとわかる。
鈴はこんな妖力の強いあやかしに初めて会い、肺が押しつぶされたように呼吸しにくい。
足下で小さく震える人間の子供に、男はじっと見下ろしていたがおもむろにしゃがんでジロジロと鈴を見た。
「とりあえず風呂と飯だ」
そう言うとあっという間に鈴を肩に担いだ。
米俵か木でも担ぐように。
そして風のように木々の間を走り抜ける。
鈴は衰弱していたことと強い妖気に当てられ気を失った。