「助けて欲しいか?」
突然、頭上から男の声がした。
それも若い男の声。
強いその声だけで身体がビリッとした。
鈴は気をとられそうになったが、後ろを追いかけてくるあやかしから逃げるのが先決だ。
「助けて欲しいか」
再度の問いかけに、鈴は口を結び首を横に振った。
おそらくこれもあやかしの声。
そうやって気を許してしまえば、敵はそこを狙う。
あやかしお決まりのやり方だ。
だから頷いてはならない、どんなに助けて欲しくとも。
足下をよく見ていなかったせいで倒木につまずき思い切り転んだ。
足に痛みが走り、鈴の顔が歪む。
手をつき立ち上がろうとしたが気がついた。
あやかし達に取り囲まれていることを。
「捕まえた」
ねっとりとした声が聞こえ、鈴は隠し持ってきた短剣を引き抜き自分の足下近くに振り下ろす。
ギャァ!という声に動かない片足を引きずり進もうとするが、今度こそ思い切りその足を強く掴まれ、痛みで叫びそうになるのを歯を食いしばる。
「そこまででも助けを求めないのか」
あの男の声だ。
きっと見ながら楽しんでいるのだろう。
あやかしに足を掴まれ必死にもがくが動けない。
周囲は暗闇、木々の間から月の光が差し込んで、極楽浄土に誘う掛け軸の絵と重なった。
その光は鈴の元には届いていない。
これがきっと答えなのだろう。