「討ち取るのならせめて私だけにしてはくれないか。
他の者達には陰陽師としての仕事を終えてもらう。
だから生かして欲しい」
次郎の言葉に周囲の者達が、そんな、と声を出す。
わかっている、当主すらあの鬼相手では無理なのだと。
だが当主が死に陰陽師としての仕事を他の者もしなくなるとなれば、事実上藤谷家の終わり。
ここで陰陽師として死ぬか、それとも陰陽師をやめ生きながらえるか。
他の者達は答えがすぐには出なかった。
既に覇気の無い陰陽師達にシグはため息をつく。
こんなにも相手にしない間に弱くなったのか。
あやかしを滅して平穏をと言いながら、実際はそれで生きながらえていた弱い生き物。
だが自分の主は人間でそれも陰陽師としての血を引く娘を気に入られてしまった。
たった一声聞こえただけで消えてしまった主。
それだけ突き動かす相手なら、もうシグとしても嫌だなどとは言っていられない。
そしてそんな娘の希望を、主は受け入れてしまうのだろう。
「そういうならお父様も陰陽師としての仕事を辞めるのでしょう?
それならアスラに何かすることも無い、ねぇだから」
鈴はアスラの袖を軽く引っ張って必死に頼み込む。
「こんな親でもお前にとっては親か」
アスラの言葉に鈴は穏やかな表情になる。
「母は死んでもうお父様しかいないから」
「俺がいるだろう?」
鈴はアスラの言葉に目を開く。
「これからは俺がいる。
家族が欲しいのならそうすればいい。
だがそれでもお前はこの男を殺したくは無いのだろうな」
アスラを見上げ涙を流す鈴に、アスラはその涙をそっと指ですくう。
そして次郎の方を向いた。
「お前達が生きられるのはお前達が虐げた娘の温情によるものだ。
その命、誰に与えられたかよく肝に銘じて生きることだな」
行くぞ、とアスラは優しく鈴を抱え上げた。
「鈴」
次郎が声をかけ手を伸ばす。
鈴はふわりと微笑み、その場からアスラ達とともに消えた。
その場には未だ倒れた男や、緊張の糸が途切れ泣き出す者などで様々。
次郎は天を仰ぎ、運命とはこういうことか、と呟いた。