「見ればわかるだろう、この馬鹿がお前と話がしたいと言うから帰したのだ」
「何をそのような世迷い言を」
「だから馬鹿かと言っている。
ここに居るお前達と私一人、どちらが強いのかすら今の陰陽師はわからないくらい堕落したのか?」

何だと?!と数名の若い陰陽師が呪符を持って呪文を唱える。
だがアスラの前にある何かに弾かれて呪符は燃え尽きた。

「蚊か?うるさいな」

アスラが鈴を抱いていない手を横にすっと動かせば、何人もの陰陽師が後ろに吹き飛ばされ叫び声が聞こえた。
他の陰陽師達も呪符を持って身構えているが、能力の高い陰陽師ほどアスラの強さを感じて動けない。
次郎も自分を含めどんな人数でこの相手に叶わないことくらいわかっている。
だからといってこのまま何もしないとなれば藤谷家の恥。
次郎が腹心に目配せすれば、数名が表情を引き締め小さくうなずいた。

急に突風が吹き次郎が呪文を唱えようとしたら、アスラの前に男がこちらに背を向けて跪いていた。

「屋敷周辺、全て終えました」

アスラの一番の側近が陰陽師に背を向けている。
ようはそれだけ相手に足らないと言っているようなもの。
次郎はアスラだけで無く、腹心のシグも連れていることでもうこちらには完全に勝ち目が無いことを悟っていた。
本来もっと陰陽師が駆けつけるはずがここに来ていない。

外で討たれたか。
この人数でも足止めができるかどうか。