廊下を多くの人間が走る音がして鈴は身をこわばらせる。
「アスラ、逃げないと」
焦る鈴にアスラは腕に抱えたまま鈴を見上げ、自信ありげに笑って鈴はそれだけで安心してしまった。
「まさか、お前が来るとは」
多くの陰陽師がアスラ達に距離を開け半円のように並んでいる。
そこから一歩次郎が出てきてそう言った。
予想はしていた、鬼の屋敷にかくまわれていたという時点で。
だがこの者は鬼を統べる最高位の鬼。
『アスラ』
夜叉は鬼神であり、あやかしというよりも神に近い。
その総称がアスラと呼ばれ、鬼を統べる最高位に名付けられる。
強さに比例して美しく、金の髪、身長は高くつり目ながらも意志の強い、そしてその怖さをにじみ出させていた。
まず外に出ることの無いそんなアスラが自ら陰陽師がいる屋敷にやってきて、鈴一人を助けに来た。
尋常では無いことに、さすがの次郎もかなりの動揺をしていたが必死に押し殺す。
「やはり我々陰陽師を消し去るための餌として鈴を戻したのか」
「餌?」
次郎の言葉にアスラは不愉快そうに聞き返す。
「お前は馬鹿か?」
若い鬼にあざ笑うように言われ、次郎は血が上りそうなのを抑える。
何せ相手は二十歳くらいにみえるがもう数百年生きている相手。
圧倒的な強さを感じ、周囲の陰陽師は顔も青ざめ小さく震えているのを次郎はわかっていた。