男が鈴の頬を撫でた。
「なんとなめらかな」
ざわりとした指に驚いて鈴が声を上げると、男はより満足そうに笑う。
「本当に良い声だ。
十分に愛でてやろうぞ」
鈴は抱きかかえられ、隣の部屋に連れて行かれる。
そこには布団が一つ。
鈴はやっと自分の状況を理解し、男の腕でもがけば畳の上に転がり落ちる。
這いずるように逃げようとする鈴を、男は楽しそうに追い込んでいた。
鈴が壁にあたり、障子の方へ逃げようとしたが男に腕を捕まえられる。
細い手首を引っ張り簡単に鈴は男の方を向けさせられた。
男がもがく鈴を上から押さえ込めば、鈴の顔が驚きと恐怖に満ちているのを見てぞくぞくとしてしまう。
「さて頂こうか」
着物の袷に男の手が伸びる。
鈴はもう我慢が出来なかった。
ずっと会いたい人。
ずっと名前を呼びたい人。
もう逃げ場も無いのならせめて。
「アスラ!!!」
鈴の大きな声に男は驚くが、何の言葉なのかわからない。
「はは、もしや呪文かなにかか?
式神でも呼ぼうとしたのだろうがお前に力は無いのだろう?諦めよ」
鈴は口を引き結び、キッと男を睨みあげる。
だが次の瞬間男は鈴の視界から消えていて、大きな音とともに隣のふすまに男は突き刺さっていた。
「遅いではないか」
その声に鈴は恐る恐る顔を上げる。
金の髪をなびかせたアスラが、腕を組んで鈴を見下ろしていた。