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鈴はもう一ヶ月半ほど座敷牢に入れられたまま。
時折湯浴みをさせてくれるが、アスラの屋敷でのような豪華な風呂とはほど遠く、むかしの行水に近い。
食事も今や昔のように量も少なく全て冷めている。
元々男達が下心で品数を増やしていたり温かい物を運んでいたが、次郎に咎められ元々の状態に戻っただけ。
艶やかだった黒髪はずいぶんと傷んでいる。
着物も、櫛もかんざしもアスラにもらったものは全て鈴の手元から取り上げられてしまった。
だが鈴の目だけは未だに強い光を帯びている。
様子を見に来る男達も、未だに音を上げない鈴のその表情に違う美しさを感じていた。

「今日もお父様にお会いすることは叶いませんか」

鈴が元々面識のある男にそう尋ねると、男は食事を片付けながら、

「お前、そろそろ危ないぞ」
「危ない?」
「ご当主様は業を煮やしている。
あやかしが釣れないのなら、他にお前を利用するだろう」

この陰陽師は鈴の世話をする中でも一番年上の男だった。
鈴はこの男が自分を以前と変わらずに見ていることで安心できていた。
だが言っている意味が鈴にはわからない。
男はちらりと鈴を見て、部屋を出て行った。

鈴は座り込んだまま男の言葉の意味を考える。
さすがにこの中に入れられていた間、男達の口が軽いおかげで色々と話が聞けた。
自分があやかしだと思われていたこと、人間だとわかったがあやかしが陰陽師を潰すための餌として戻したのではないかなど。
ただ純粋に話を聞いて欲しかっただけの鈴は、自分の甘さをようやく理解した。