霊力があるなら何か灯りを灯す方法もある。
無いなら松明でも持っているべきだが、それは次郎が許さない。
月が満月に近いのか明るいおかげでなんとか時折足下は見える。
鈴は息を殺すように山を彷徨っていた。

霊力が無いとは言えあやかしを感じることは出来る。
弱いあやかしが一定の距離を開けて自分を見ているのは気付いていた。
着物の懐には呪符。腰には古いながらも短剣がある。
だがほぼ気休めのようなもの。

あやかしを滅しろというのに証しを持ってこい、これはほぼ鈴に生きて帰ってくるなと言っているようなものだ。
術で滅してしまえば消えてしまうことがほとんどで、何かを奪ってそれから滅するなどというのは相当優秀な陰陽師でも厳しいこと。

仕方が無い、私には力が無いのだから。

鈴は歯を食いしばると、森の中を力ない足取りで進む。
既に獣道、顔には枝や葉がぶつかるのを耐える。
その時、結界に触れていたことなど鈴は全く気付かなかった。