夜叉鬼の鈴


鈴がいなくなって食事がつまらなくなった。
縁側で暖かい枕が無くなった。
その子供は楽しげに普通は誰もが恐れる自分と話していた。
陰陽師であるにもかかわらず。
つい鈴を手放すことが出来ず、三年もここに置いてしまった。
その間にみるみる鈴は美しく育ち、周囲の鬼達は食べるために育てたのだと信じ切っていた。

美しいものがあれば愛でたい。
自分のものならなおさら。

なのに鈴はそんなアスラの変化に気づくことも無く、あやかしと陰陽師の橋渡しをしたいなどと言い出した。
裏切られた気がした。
結局は人間の元に返りたいのではないかと。

あんなにかわいがったのに。
あんなに楽しそうに笑うようになったのに。

その反動かアスラは自分でも抑えきれない怒りに変わり、鈴をここから追い出してしまった。

でも思っていたのだ、きっと自分を恋しがるのではないだろうか、何かあれば自分を呼ぶはずだと。
なのにその声はアスラの耳に届かない。
それがアスラの機嫌をより悪くしていた。

「アスラ様」
「放っておけ」

不機嫌な声にシグは頭を下げて下がった。

アスラは部下が周囲にいないのを確認し、大の字に転がる。
どうしているだろうか。
あの屋敷では酷い目に遭っていたと言っていたのに。
あの姿なら少しはましに扱われるのではと思っていたが、本当に折檻などあっていたら。
もしも本当にあの馬鹿話のような事を父親であるそれも陰陽師に伝えればどうなるのか。

「呼ばないあいつが悪いのだ」

チリン、と縁側につるしていた風鈴が鳴った。
鈴がいなくなってからなんとなく人間の里に下りたときに買った物。
チリン。
誰かが楽しげに笑っている。
その余韻が消えていく。
もう一度その音を聞こうとアスラは目をつむった。