「お父様、お願いがあるのです」
「申してみよ」
「私はあやかしに襲われそうになりましたが、そこを他のあやかしに助けられました。
そこでは人間を嫌う者が多かったのですが、だんだんと彼らと話が通じることを知ったのです」

ほぉ、と次郎は返す。
なるほど、やはりあやかしに匿われていたのか。
それも鈴にそれほどのことが出来るあやかしなど限られている。

「もしかしてお前は鬼の屋敷にいたのではあるまいな」

鈴はぱっと表情を明るくして、

「はい。非常に強い鬼のあやかしの屋敷で世話になりました。
そこで色々と話をするうち、お互いをもっと知ることが大切なのではと思ったのです。
彼らは好き好んで人間を襲っているわけではなく、そういう者たちを罰してもいるようでした。
私はあやかしが人間を襲うから滅しているのだというと、彼らは人間が襲ってくるから人間の味を覚えたのだというのです。
きっとすべて滅するだけではなく、話をすることも大切なのではと」

必死に話す鈴に、次郎はすべての合点がいった。
あやかしに洗脳されたのだ。
食事を与えられ、良い生活をして優しくする。
そうすれば相手は気を許して自分たちの言いなりになるのだ。

陰陽師でありながらこんなにも簡単に懐柔されるとは。

自分の娘ながら情けない話。
だがこんなに美しくして戻したところ見ると、これで男の陰陽師達を揺さぶるつもりなのだろう。
既に鈴を見た男達が色めきだっている。

あやかしは、特に鬼は強ければ強いほど美しい。
その妖艶さで人間を懐柔するのだ。
強い鬼に匿われていたとなれば相当な美しさだろう。
それに現を抜かすとは。