「鏡を見てみるがいい。よくぞそれで嘘をつける。
鈴とは似ても似つかない姿であろうが」
鈴が格子に近づき姿見をのぞき込むと、その鏡に映るのは見慣れたみすぼらしい自分ではなかった。
驚き後ろに下がってしまう。
顔を触り、髪を触る。
よく見れば自分の手はこんなに長かっただろうか。
いや、視線もこんなに高かっただろうか。
思い返せばアスラの屋敷で鏡を見たことはなかった。
庭の池は危ないから近寄るなと言われ、自分自身を見た記憶はない。
だが、鈴の感覚では数週間の滞在だったはず。
鏡に映る姿はどうみても幼かった頃の自分ではない。
なぜ。
戻る道すがら年を取ったのか。
ならば着物の丈が短くなるはずなのにそうなってはいない。
戸惑っている鈴に、次郎は演技なのか判断がつかなかった。
考えたのはあやかしが鈴に化けたというもの。
だがこの部屋に入れて反応していないならそうではない。
一番はあやかしに飼われていた可能性、またはあやかしの罠として逃がされたか。
そうでなければ三年後などに戻るはずもなく、そもそも鬼火などを持たせて自分たちとの関係を隠そうともしていないのは不可解だ。
何が狙いなのか。
鈴が本物かどうかいくつか質問してみても正しい答えが返ってくる。
ならば本物をよこした意味があるはず。
次郎は腕を組み、鈴を見下ろした。