「ご用でしょうか」
「あの火を一つ、鈴に持たせてやれ。
これから家に帰る手土産だ」
「かしこまりました」

シグは頭を下げたままちらりと鈴に視線をよこす。
その視線は冷たく、ようやく面倒なのがいなくなるのかという安堵も含まれていた。

「えっと」

確かに夜道になるときに火はあると助かる。
だが自分が欲しいのは証しであってそれではない。
鈴がまた口を開こうとしたのをアスラが手で制した。

「お前は何もせずとも良い。
ただこれをお前の親父とやらにみせればいいだけだ」

シグが持ってきたのは持ち手のついた細長い提灯。
火袋は白で、中の火がやんわりと外へ伝わる。

すぐに出て行けという雰囲気を感じ取り、鈴は困惑していた。
完全にアスラの気分を害してしまった。
それがわかるので、もう少し居たい、まだ話したいなどとは言えない。
せめてと何とか会話を伸ばそうとしてみる。

「この着物は」
「やる」
「かんざしや櫛は」
「お前に渡した物は全てやる。
早く立たなければ長い時間夜道を彷徨うことになるぞ」

こんな豪華な着物で帰っては怪しまれると元々着ていた着物を着たいと言えば捨てた言われ、鈴はこれ以上ここにいることが許されないことに一気の寂しさが襲ってきた。