「何を考えている」

この娘は何か大きな勘違いを起こしている。
言った意味をわかっていないとはどこまで間が抜けているのか。

「足も治ったし家に戻ってお父様と話をしてみる」

流石にそれにはアスラも呆れてしまった。

「お前はあの家でされていたのことを忘れたのか?」

ここで過ごしている中、鈴はアスラの問いかけにぽつりぽつりと自分の境遇を話し出し、それが酷い扱いである事は十分理解した。
そんな場所にまた戻りたいというとは。
それだけやはり人間は人間の中にいる方が良いのだろう。
アスラはそもそも鈴を気まぐれに拾い、玩具代わりにしているつもりだった。
だがその玩具はみるみる勝手な誤解をして、それを話してみるという。

陰陽師を説得する気か?信じられるわけが無い。
どうせそうは言っても帰りたいからその口実だろう。

自分の事などより、家族の方が所詮は良いのか。

アスラの中によどみが生まれた。
それが不快でたまらない。
鈴が原因なのだから、きっと鈴を捨てればこの気持ち悪さも消えるはずだ。

「・・・・・・帰るにはあやかしを滅した証しを持ってくるのであったな」

そう言えばそういう約束だった。
鈴はすっかりその約束を忘れ、ただあやかしと他の方法で歩み寄れる可能性を伝えたい一心だった。
確かにあの父親が何も持たず帰ってきて家に入れてくれるとは思えない。

「あの、アスラの家の外でその、何かを」
「シグ」

アスラに迷惑を掛けない場所で弱いあやかしを倒せないか許可を得ようと思えば、アスラの呼んだ声にすぐさまシグが現れた。