そんな事が裏で起きているとも知らず、鈴はいつものようにさわり心地の良いアスラの髪を撫でながら言う。

「アスラと出逢ったから、私はあやかしへ違う見方が出来るようになったよ」

アスラは顔を庭園の方から上を向き、鈴の顔を見上げるような体制になった。

「違う見方?」
「うん。
だってこうやってアスラと話が出来て、優しくして貰って、他のあやかしの人たちにもだいぶ挨拶とか会話が出来るようになって。
もっともっと相手の事が知りたいって思うの。
きっと他の陰陽師もアスラ達と話せば」

期待に満ちた目をする鈴に、アスラは大きな声で笑い出した。

「なんてめでたい頭だ」

鈴はアスラの笑う意味とその言葉の意味がわからない。

「お前がここで無事にいるのは俺が連れて来て危害を加えないよう言いつけてあるからだ。
別にお前と親しくなりたいなどと思っている訳では無い」

馬鹿にすると言うよりは、事実を言ったまでのこと。
だがこの娘はこの言葉に悲しむだろうか、とアスラの頭に考えがよぎった。

「知ってる」

鈴の答えはアスラにとって意外なものだった。

「ここにいて安全なのはアスラが偉くてみんなに言っているから従ってるだけだよね。
だけどそれでも会話が出来るようになったよ。
おはようございます、ありがとうございます、それに言葉は返さなくても反応するようになってくれたり、簡単な返事ならする人もいる。
それはアスラが私をここに置いてくれたから。
だから私はあやかしときちんと話す事が出来るという事だってわかったの」

何かを決めたようなまなざしに、アスラは身体を起こして鈴の顔を両手で挟むように押さえると自分の方を向かせた。