「不満そうだな」
アスラはからかうように考え込んでいる鈴を覗き込む。
「そもそも人の欲望や悪意があやかしを呼び寄せるのだから自業自得だ。
こちらとてそれなりに管理しているが、全てに目が届くわけでは無い」
「だからそういう困ったあやかしを私達は滅しているだけで」
「違うな。お前達はあやかしでひとまとめにしているだろうが。
俺たちのような者を捕まえようものなら一気に名がとどろくだろうから躍起なのも知っている。
所詮は自分たちの利益のためにしかあやかしを見てはいない」
「なら陰陽師である私の事、憎くは無いの?・・・・・・弱いけど」
瞳の中には不安が見て取れ、そんな鈴の頭をアスラは撫でる。
最初拾ったときとは比べられないほど髪は綺麗になった。
アスラの下僕達はあの汚い髪はうっとうしいと鈴に聞くことも無く、肩より上までバッサリと切ってしまった。
鈴は刃物を出され恐怖から動けなかったが、麻紐で結ばれたボサボサの髪が束で切られたとき、不思議と自分の身体が軽くなったように思えた。
強いて言えば縛られていたものから解き放たれた、そんな感じかもしれない。
きっとあの家にいたら髪を切ることさえ許されなかったことを思うと、鈴は短くなった髪を触って自分が生まれ変わった気がした。
髪を撫でているアスラに鈴は返事が返ってこないので不安そうな顔をする。
それに気付いてアスラは鈴の鼻を軽く摘まんだ。
「お前が?
俺に勝てる力も無いのに何を憎むというのだ」
「勝てる勝てないじゃ無くて、陰陽師だし人間だから」
「そうだな、お前は人の子だ。
だが俺が拾ったもの、俺のものだから俺が好きにしていい」
憎むのか聞いたはずが、いつの間にかアスラは鈴を自分の所有物と考えているという話になっていた。
はぐらかされているのか、深刻に考えていないのか。
アスラが退屈そうにしだしたので鈴はそれ以上聞くのを諦めた。