肩の荷物がふらふらしていることに気付いたアスラが抱き直そうとすると、シグが鈴を捕まえる。

「これはどこに置けば?」

まさか自分の主がこんなみすぼらしい人の子を持って帰ってくるとは思わず、シグは苛立っていた。

「俺の部屋の隣にある控えの間にでも寝せておけ。
間違えても廊下に転がしたりするなよ?ちゃんと布団にだ。
人間は、特にそんな子供など簡単に死ぬのだから」

アスラが楽しそうに話すのでシグは大きなため息をつく。

「これをどうする気ですか」
「聞いていただろう?
足が治るまで置いておくと」
「新しい玩具ですか、これは」

玩具扱いされた鈴は、疲れと緊張の糸が切れて深い眠りについてしまい、シグが乱暴に抱きかかえているのに起きもしない。
そんな鈴の頬をアスラは撫でる。

「暇だったからな」
「貴方は鬼を統べる者です。
むしろ陰陽師など全て殺すべきでは」

ゾクリとシグは前にいる主の妖気が高まったのに気付く。
アスラは目を細め笑みを浮かべていた。

「あんなもの、勝手に共食いするだろう。
何故俺が気にせねばならん」

無邪気に子供のような顔をすれば、鬼本来の冷酷さを簡単に表に出す。
こういうお人だった。
シグは恐怖しつつも安心して頭を下げる。

「失礼致しました。
この者を布団に寝かせて参ります」

アスラはそれを聞いて目線を少しよこすだけでその場を離れた。

「この頃のご様子を考えれば、ひととき楽しまれるくらい構わぬか」

シグの独り言は誰もいない廊下に消えた。