「お前、足を怪我しているだろう。
そのまま出てもまたあいつらの餌食だ。
治るまでせめてゆっくりしていくといい」

戸惑う鈴をアスラは片腕で抱き上げ肩に乗せる。
驚いた鈴はひし、と金の髪を握った。

「痛い」
「ごめんなさい」

慌てて肩の辺りの生地を掴む。
アスラが部屋を出ようとすると勝手に障子が開くのだが、そこにはシグが控えていて鈴を睨んでいた。

「ほら、庭を見て見ろ」

鈴は下から見上げてくる怖い目つきの鬼に震えつつ、顔を前に向ける。
そこには夜の庭園なのに、ぽつぽつと空中に青い火が付いていた。
それは鬼火なのだが、本来は人や動物などの霊であり、それをアスラは好き勝手に扱うことが出来る。
鬼火である事は鈴にもわかった。
だがそこから見える光景はなんとも美しい。
季節問わず咲いている花々、実のなっている木。
賑やかにも思える庭に、鬼火はむしろ溶け込むように他の生き物を美しく見せていた。

「綺麗」

ほおっと鈴はその光景を見ながら呟いた。

「綺麗だろう。
また明日になれば陽のあたる庭も観てみると良い。
美しく生き生きとした物を見るのは大切な事だ」

明日の約束。
それはアスラにとって何気ない言葉。
それが捨てられ打ちひしがれていた鈴の心に温かさを灯す。

どうせ食べられるとしても、不思議とアスラなら良いかもしれない。
最後くらい誰かに優しくされた記憶で終わりたい。
気がつけば肩に担がれたまま、鈴はうつらうつらとしながら眠りに抗っていた。