あやかしは人に害を為すものとして、その討伐の為に陰陽師が活躍していた時代。
数多い陰陽師の中でも、特に藤谷家は有名な家の一つであった。
藤谷家に生まれれば大抵霊力が強く、幼い頃から陰陽師として活躍する者が多い。
だがそんな中で、一人の少女は霊力も乏しく一族では蔑まれていた。

屋敷の大広間の上座には四十を越えた大柄の男が腕を組み侮蔑のまなざしで立ったまま、『鈴』を見下ろす。

「鈴。また何もお前は成果を上げられなかったのか」

十三歳になったばかりの鈴は小さな身体をより小さくして、畳に這いつくばるように頭を下げていた。
その少女の髪は櫛を使わせてもらえないために傷み、そんな長い髪を納屋で拾った麻紐で一つに結んでいる。
着物も他の物が着ている物とは格段に質が悪く、それもお下がりのために袖丈が長いがそれを繕うことすら許されていない。
ろくに寝ることすらさせてもらえずにあやかし退治に借り出されていたので、目の下には隈ができていた。

「申し訳ございません」

力ない小さな声に、周囲からは笑いが起こる。
この広い畳敷きの部屋には二十人ほど若者の陰陽師だけが揃っているが、誰も鈴に同情を示す者などいない。
次期当主と言われている鈴の父でもある次郎は、周囲の者達を鋭い目で見回す。
若い陰陽師達は目をそらすようにするが、それを次郎は咎めることは無かった。