「書庫室の鍵、ですか・・・・・・?」

しゃらり。
そんな音を立てながら、手渡された古い鍵を受け取る。

「そうです。あなたには現場よりも書庫の管理を手伝って欲しいと思いまして」

「で、ですがそれは、私でなくともできる仕事では・・・・・・」

「あなたでなくてもできる仕事ならあなたもできますよね。これは決定事項ですから。詳しいことは書庫室にいる綾代(あやしろ)さんに聞いてください」

ぴしゃり、と冷たく言われてしまい会話は強制的に終わる。
雛子は、渡されたばかりの鍵を絶望的な気持ちで握るしかできなかった。
少し錆び付いた古い鍵。
この帝都怪異対策特務機関の本部にある、書庫の鍵だ。
禁書や貴重な資料が納められているらしいその書庫は、現在は一人が管理しているらしい。
しかし、その人物から多忙を理由に手伝いが欲しいと募集がかかった結果、雛子に白羽の矢が立ったというわけだ。

「そ、そんな・・・・・・第六部隊編入のお話はどこへ・・・・・・」

乙村雛子(おとむらひなこ)は、機関に所属する新米の祓い師であった。

古都で祓い師として活躍する兄に憧れ、帝都で機関に入った雛子だったが、現実は厳しいものだった。
立派な祓い師になり怪異を祓うことを決意する雛子だったが、まだ齢二十歳にも満たない少女がどれほど結果を出したところで、何も残らない。

女が前線で戦うなどもってのほか。

そういう古くさい考えの上司たちにとって、雛子の努力は認められないものだった。
華族の令嬢でもなんでもなく、ただ兄が有能なだけの娘など、上層部にとっては塵芥と変わりない。
つい先日ようやく第六部隊編入の決定がされたばかりだったのに、こんなに早く手のひらを返されるだなんて。

「書庫の管理のお手伝い、か・・・・・・」

確か、綾代修一郎(あやしろしゅういちろう)という名の男性が管理していると聞いた。
雛子のような下っ端には面識のない相手だが、書庫の管理の傍ら、祓い師として活躍している人物であるということは知っている。
鬼神のような戦いぶりで、その力は恐るべきものだと。
一方で、人と関わることをあまり好まず、実力があるにも関わらず書庫に籠り、単独で策戦に参加するという面もあるらしい。

怖い人でなければいいなぁ、などと考えつつ書庫へ向かう。
書庫は西棟二階の一番奥。
少し遠いが、これから毎日そこへ通うことになるのだ。
配属されてしまった以上、頑張ることしかできない。
綾代修一郎は先輩の祓い師であるから、学べることもあるだろうし、ここで功績を立ててもう一度第六部隊編入を願い出るのも一つの手だろう。