「本当に心配したんだかんな。どこにもいねぇし、誰も見てねぇっていうんだから本気で焦った。お前弱っちいんだからもっと気ぃつけろ」

「分かってますよ。次からは気をつけます」

結局、雛子は京だけでなく寮の管理長からもお叱りを受けた。
京からの話を聞いて術で雛子の居所を捜索したところ、結界の中にいたせいか、一時的にこの世界から失踪したような形になっていたらしい。
そうなってはもう大騒ぎだ。
そういう時は、死んだか、もしくは異界に連れ去られたの二択になる。
京や三津島以外にも巻き込んでいたようで、ますます申し訳なくなった。

「ホントだぞ。次帰ってこなかったら書庫室に殴り込みにいくぞ、俺は」

京が修一郎に対して闘志を燃やしている。

「でも、心配してくださってありがとうございます。私、京さんとお友達で良かったです」

「お、おう・・・・・・」

素直に感謝を述べたところ、京は照れたようにそっぽを向いてしまった。

「あ、そうだ。京さん、書庫室の夜叉についてですが・・・・・・」

「な、なんだよ」

「いえ、やっぱりなんでもありません」

夜叉について言おうか迷ったが、今はやめておこう。
心配かけたばかりの相手を怖がらせるのも良くない。

結局、京には仕事が立て込んでいたと嘘をついて、命を狙われていたなんて言えなかった。
心配をかけたくないのもあるが、きっと彼のことだから雛子と関わりのある人物を一人一人訪ね回って脅迫、もとい事情聴取をするはずだろう。
雛子は普段彼と仲良くさせてもらっているが、そうではない人にとって京は近寄り難い怖い人の印象が強い。
騒ぎになることは間違いないだろうから、それだけは避けたかった。

「一体どこのどなたの恨みをかってしまったのですかね・・・・・・」