皆で寺の方へ出た。鳩司は私の横についた。

 寒菊さまの母親は、小柄で愛らしい雰囲気の女性だった。父親は寒菊さまが歳を重ねたらこうなるのだろうなと思えるような風貌だった。なるほど、寒菊さまは父親似らしい。

 寺には真っ白な動物の尾と耳を生やした女性と狐の尾と耳を生やした女性もいた。先ほど話に出てきた二人だろう。そして以前、寒菊さんと出かけるのを見かけた二人だろう。狐の女性は間違いない。

 寒菊さまは母親と抱き合った。「無事でよかった」と藍一郎さまがいったものだから驚いた。

 「ああ、無事でよかった」と寒菊さまもいった。

 「まさかこんなところにお世話になっていたとは、」と父親が辺りを見回しながらいう。その様はまるで普通の人間だ。

 「気に入ったのならどうぞ」と藍一郎さまがいった。「俺は他所で百姓をしますので」

 「あやかしを探して鎮めるのです」と白い女性がいった。ゆさゆさと尾が踊る。

彼女の声は寒菊さまと帰ってきたところに遭遇して聞いた、あの白い狼のような大きな犬のものだった。若旦那さま、自信を持って下さいといっていた、あの声だ。

 「私は今後も、寒菊さまとお出かけがしたいです」

 「寒菊?」という母親に、寒菊さまは「私の名だよ」と答えた。「ここの旦那さまに戴いたんだ」と。

 「素敵ね」と頷いて、母親は眼尻に涙を滲ませた。

 「寒菊さま、いなくなってしまっては寂しいです」と犬の女性。

 「我も息子さんと仕事がしてみたい」と一助さままでいう。

 ここまで露骨では藍一郎さまに同情できるような気がして、私は前に立っている彼に「随分な嫌われようですね」と笑った。

 「俺にはあやかしの相手よりも農作物の相手の方が向いている」と振り返る彼に、「うえ、なんてことだい」と思い切り顔を顰めて見せる。

 「ではなんのためにあんな意固地になっていたのですか」

 「手前には生涯わかりやしないだろうよ」

 「ええわかりませんね、貴方のような暴れん坊の考えることなんざ」

 「はっ、その暴れん坊に喧嘩を売りやがったのはどこのどいつだよ」

 「喧嘩を売っただなんて嫌だ、人聞きの悪い……。先に刀を抜いたのはそちらでしょう?」

 私は彼の腹の辺りに指先を突き刺すように手を動かした。

 「私は貴方のその腹で、繁殖を繰り返した、邪悪な魂をどうっにかして取り除いて差し上げようと考えたんです。おかげでこんっなに角が取れて。感謝なさい。我に感謝せよ」

 「この女、誰に向かって口利いていやがる」

 今度は私が「はっ」と笑ってやった。「男なんて怖くないんだよ。特にあんたのような暴れるくらいしか能のないようなのは」

 「藍一郎さまを愚弄するつもりですの、」と藍さんも入ってきた。

 「愚弄だなんてそんな、事実を申し上げたまでですのよ」とふざけると、藍さんは「なんて醜い女」と顔を顰める。

私は「よく似ていますね」といい返した。彼女は眼を見開き「はっ、」と笑う。「貴方、碌な死に方しないわよ」

 私はなにもいわずに笑ってやった。どんな死に方も、暴君に振り回された乱暴な刀に斬られるなんていうのよりはずっとましだろうに。