私の隣についた鳩司は「刀、」と驚いた。私は先ほどよりも冷静になっていた。だから「鳩司」と呼びかけた。

 「私の抜いたこの刀が毀れたときには、寒菊さまを連れて逃げろ」

 「は、なにをいうんだ。正気かよ」

 「正直、正気」と私はつまらない言葉で笑った。

 「気が触れてる」と彼は小さく首を振った。

 私は廊下の先の戸に手をかけ、「寒菊さまの無事は補償してくれ」と伝えた。

 鳩司は苦笑した。

 「お前が負傷しようと構わないとでもいいたげだが、俺にも愛しい、美しき傘があるんでね。血生臭い体で戻るようなことはしないさ」

 私が戸を開けてしまってから、彼は「彼奴の親友も無事で帰す」と力強くいった。私は小さく「莫迦」と笑い返した。