鳩司は「それじゃあいってくる」となんでもないようにいって部屋を出た。

 帖と二人残され、私は落ち着かなくなった。

 「どうしてあんなにも寒菊さまが気に入らないかね」と帖はいった。「どうせ半妖だからとか、そんな下らぬ理由だろう」と私は答えた。そうしながら腹が立ってくる。

 「半妖でなにが悪い。力を振り翳す愚か者だったら、穏やかな者の方がふさわしいに決まっている」

 「まあ向こうの人が怒るのもわかるけどね」と帖はいう。「他人が継ぐなんてそうそうない。ふさわしい者がなければ、現当主の親戚を当たったりするものだから」

 「そういうつまらない為来りに縛られているからいけないんだ」

 「ただねえ……。ほら、名前も残さないとならないし」

 そういわれてしまうと、ちょっと理解できてしまう自分がいる。「そうでしょう」と帖は穏やかにいった。

 「ただ、俺も寒菊さまに継いでほしいとは思うよ。お綺の怒るように、藍一郎さまも菊臣さまも、寒菊さまが攻撃されていて止められないわけだからね。ああいや、そのどちらかが攻撃しているわけだけど」

 私は腿の上でぐっと手を握った。「許せない。こんなにも苛立たしく思ったのは初めてだ」

 「お綺は正義感が強いのだな」

 「これで腹を立てない者があるか」と思わず語調が強くなった。「力のある者がない者に一方的に攻撃しているんだぞ、そんなのは人間のすることじゃない」

 「それは、標的になっているのが寒菊さまだから怒っているのか?」

 かあっと顔に熱が集まる。

 「違う」といっても「素直でよい、よい」と彼は満足げに笑って頷く。

 「私は、力でどうにかしようというのがとにかく気に入らないのだ。たとえ標的が帖であっても腹は立つ」

 「おい待て」と帖が声を上げる。「それではお綺は俺のことが嫌いであるかのようではないか」

 「嫌いではないが、」

 「まあ俺は自分でどうにかできるからね。お綺は寒菊さまを気にかけるのがいい。その悩みの傍に置いてくれてもいいがね」

 「は、」と締まりのない声が出て、帖は「冗談だよ」と笑った。