十五歳で寒菊と出会った。なんだか気取った男だった。父が連れてきたのだ。またなんか拾ってきやがったとうんざりした。しかも宿の方ではなくこちらに置いておくという。

 俺はすぐに警戒した。父はどうもなにを考えているかわからない。この素性の知れぬ気取った男にこの家を明け渡すなどと言いださないとも限らない。

いや、あやかしなどという化け物を飼うのが趣味の男だ、彼奴自身、どこか化け物じみている。人間の常識はもはや通じないかもしれない。

この寒菊なる妙に恵まれた男がここを継ぐということも、父にとっては大した問題ではないに違いない。

俺よりも菊臣よりも優れていると見れば、軽々とここを明け渡すに違いない。認めてなるものか。

まず誰だい、この男。聞けば年ももう十七というではないか。なぜ大人まで拾ってくる。

 ああ、あれもそうだったと、食事の支度を手伝ってくれる女を思い出した。あれも大人になってから父に拾われたはずだった。

ああ、父が関わればどんなにおかしなことだって起こり得る。

 寒菊は思いの外悪い奴ではなかった。俺の子供じみた接し方にものんびりと丁寧に接してきた。

共に過ごしていくうちに、彼奴の穏やかさに強張ったところがじんわりと解されていくようだった。どうしてそんなことも、と思うようなことを知らなかったりするのもおかしかった。

 仲直り、なんていってみても、初めから仲を違えてなどいないなどというし、あれはやたらに教養を与えられたのだろう、人間らしさを欠いたほどの善人だった。

 いつか、寒菊とこの家の話になった。彼奴と話すうちに、改めてこの家が滅んでしまえばいいと思えてきた。そこで彼奴は、なんとも魅力的な提案をした。

他人の彼奴が継ぐことで、絶やしてしまうのはどうかと。全てから解放されるような爽快な気分だった。

寒菊が継いでくれれば、ここに日暮という名前はなくなる。俺も菊臣も、この屋敷の人間ではなくなる。ここを出て、完全なる他人の顔をして過ごすことができる。

化け物を飼う家になど初めから生まれていないと、今までの人生の全てを否定できる。ただ、九歳の頃の絶望は残るものの。

 ただ、そう喜んでもいられなかった。寒菊は俺の兄になっていた。血の繋がりはなくとも、寒菊は家族だった。

化け物と接触するという危険に曝すのは苦しかった。自分が逃げたことで、善良な人間が苦しむのは嫌だった。