一助の、寝ているのではないかと思うようななにも考えていなそうな眼に眺められながら、俺は菊臣と共に庭に出た。

 「菊臣は何色の菊が好きなんだ?」

 「あまり考えたことがありません」

 「そうなのか」と俺はかなり真剣に驚いた。「菊臣の名前には菊という音が入っている。それなのに関心がないのか」

 「だって関係ないじゃないですか」と菊臣は笑った。「菊は花、僕は人間です」

 「確かにそうだが……」

 「そうですね、でも敢えて挙げるなら、黄色ですかね。如何にも菊らしい」

 「俺は菊といえば白という印象だな」

 俺は庭の繚乱たる菊花を見渡した。「菊というのはしかし、随分たくさんの色があるな」

 白と黄色が目立つが、淡い紅色や赤、橙、紫といった色もある。

 「そうですね」

 「しかし、青い菊というのは見当たらないな」

 ふと気づいていってみると、「確かにそうですね」と菊臣も頷いた。

 「しかし、青色の花というのは全体に少ないように思います。思いつくのは、紫陽花と朝顔くらいです」

 「それもそうだな」と答えたものの、父も弟も名前に菊の音が入っていながら、自分の名前にはないことに気づいて、取り残されたような、淋しいような心地がした。

 「兄上は菊の花が好きですか」

 「これだけ咲かれては、見てやらないととは思う」

 菊臣は小さく笑った。「菊の花も喜んでいますね」と。

 「植物にも、魂というのは宿るのだろうか」

 「そりゃあ、宿るのではないですか。植物だって、生きていますし。なにせ道具にも宿るのですよ」

 「そうか。では、存分に愛してやらないといけない」

 俺は首を横に振った。「魂を哀しませちゃあいかん」

 「兄上は優しいですね」と菊臣はいった。

 「これでも寺の長男だ、魂のことは思わなければならん」

 「僕は今度、兄上も一緒に、散歩へ出かけたいです」と、菊臣はぽつんと呟くようにいった。