そのあとに迎えた二度目の秋、久菊さまがお綺を連れてきた。ちょうど私がここへきたときと同じくらいの年齢に見えた。大層美しい、愛らしい、人間の女性だった。

 そのお綺との出会いを合図にでもしたように、藍一郎さんがまた活発になった。お綺に酷く執着しているようだった。

私はそれが、彼の家督の座への執着が写し出されたものだと気がついた。

嫡男が嫁をもらえば、状況はどうであれ、その嫡男は家督の座への大きな一歩を進むだろう。藍一郎さんはその嫁役に、お綺を選んだのだ。

 私は彼に対し、空腹を堪え忍びながら、獲物の自ら寄ってくるのを待ち望んでいた獣のような獰猛さを感じた。空腹という慾望はその生き物を激しく突き動かす。

 家督の座への渇望は、藍一郎という男を綺という女に真っ直ぐに走らせた。彼は私を認めはしない。いかなる手段を使ってでも、きっとこの家を自分のものとする。

 私は、やはり彼に任せるべきかと考えた。これほど拘っているのだ、好きにさせるのがいいのではないか。

 しかし、お綺に私を次期当主と紹介したとき、彼から並外れた激情を感じた。それに危険を感じた。私は初めて、彼に爭う意志を表した。

 彼は静かに激しく、それを受け入れた。部屋に私と藍さんを残して、戻ってきては私を殴りつけたときによく似ていた。実際には、当時よりも眼に宿る感情の激しさが増したように思えたが。

 彼の激情を全身に受け入れながら、ああだめだと思った。この人には任せられない。彼はやはり、あやかしを、人ならざるものを認めはしない。

 「手前のような化け物にこの家は渡さぬ」

 その言葉が全部だった。その言葉で、全部伝わった。

 闘いながら、幾度も弱気になった。これは罰なのだと思った。やはり彼が怒るのは当然なのだ。私はこの家の者となんら関係がない。

どんな事情があろうとも、それがなんであれ、他人からなにかを奪うなんぞ、誰にも許されはしない。強く思った。