共にいけたらいいのだけど、という彼にその気持ちだけで充分だといって、私は彼に微笑に送られて寺を離れた。玄関に戻り、下駄を履いて外に出た。

 無人の敷地を表に進み、前の通りに出て左に折れ、すぐそこの開いた門扉の中へ進む。気配を感じて見上げれば、鳩が一羽飛んでいた。その鳩はふわりふわりこちらへ飛んできて、私の眼の前に降り立つ瞬間には若い男性の姿になった。

 「おはようございます、寒菊さま」と頭を下げる彼に、「そう畏まらないで」と返す。

 「月さんときつさんはいるかな」

 鳩司君は一つ辞儀をして身軽に飛んでいった。

 彼はすぐに、二人の女性を抱えて戻ってきた。白い頭髪に白い着物、頭に白い耳を生やした彼女が犬の月——月に似た白い毛から——、茶色の頭髪に赤茶の着物、頭に茶色の耳を生やした彼女が狐のきつだ。

 鳩司君の元を離れた月さんに「若旦那さまがなんの御用でして?」といわれ、ぎくりとする。どうしてこちらまで話が通っているのだ。

 「ちょっと手伝ってほしいことがあるのです」

 きつさんは軽やかな音を鳴らして地に下り、「私たちには、もうなんの力もございませんよ」という。

 「みんなの種族が大切なのです」

 月さんが「耳でも触りますか、」と白い耳をひくひく動かす。やわらかくあたたかそうなそれは魅力的だが、私の目的はそんな無邪気なものではない。

 鳩司君は彼女の後ろで辞儀をして中へ戻った。

 「人を探してほしいのです」と私は打ち明けた。

 「人探しを、なぜ私たちに」

 「いえ、正確には人ではありません。半妖の者を探してほしいのです。月さんは犬の、きつさんは狐の気配を感じたら、教えてほしいのです」

 「なるほど」と二人は声を重ねて頷いた。「それくらいならできるかと」ときつさん。

 「それともう一つ。どうか、私のことは内密にして戴けませんか」

 「ええ、」と二人は頷いたが、表情にはどうしてという色が滲んでいる。しかしだからといって口外してしまいそうな様子もない。私は「ありがとうございます」と頭を下げる。

 「どこに向かいますか」ときつさんにいわれ、「当てはないのです」と答える。

 「若旦那さまとお出かけだなんて光栄ですね」と月さんが無邪気な声を上げる。

 「しかし当てがないとなれば、長旅になりそうですね、」ときつさんが冷静にいう。

 「ええ、相手がどこにいるのか、皆目見当がつかないのです」

 「しかし、だからこそ私共が誘われたのですよね」と月さん。「若旦那さまの大切な方なのでしょうし、すぐに見つけますよ」

 「心強いです」と私がいうと、「あまり大きなことをいうんじゃありません」ときつさんが窘めた。